はあとけあバックナンバー
 2005/12月号
 さまざまな軽症うつ―遷延するうつ病の一部は季節性感情障害の可能性も―

いよいよ冬の到来。あっという間に太陽が沈み、夜になれば気温も下がって、コタツが恋しくなってきます。日照時間が短く、気温も低いこの時期、気分が落ち込んだり、積極的になれなかったりして、ひたすら春を待つ、という人も珍しくありません。

また、患者さんのなかには、せっかく治りかけたうつ症状が再び悪化したり、治りが悪くなったりする人もいます。その一部には、毎年秋から冬にかけて、うつ症状が出現し、三月のお彼岸頃になれば、気分が上向いてくる。初夏にはすっかり元気になる。あるいは、ちょっとハイな気分になってしまう、という人がいます。うつ状態のうちでも、こうした季節に伴って周期的に変化するタイプを「季節性気分障害」とか「季節性感情障害」と呼びます。秋から冬にかけてうつ症状を呈する「冬季うつ」と夏にうつ症状を呈する「夏季うつ」とがありますが、圧倒的に「冬季うつ」が多数派です。

「冬季うつ」と言われますが、アメリカなどの統計によれば、実際には秋から冬にかけてうつ症状を呈し、春から夏にかけては、軽い躁状態になるケースが大部分です。日本でも最近増えた遷延する軽症うつ病のなかには、このタイプが混じっているのではないかと言われ、注目されています。春から夏にかけての軽躁状態の時期には、患者さんは、「うつが治った」と感じ、自己判断で通院を中断されたりするため、なかなか一年を通しての症状の変化がつかみにくく、見過ごされたりする場合もあります。こういったケースでは、うつ症状が重症になることは比較的少ないのです。しかし、いくつか特徴的な症状があります。(1)過眠になり、だらだらと浅い眠りだが、長時間眠る (2)体重が2〜5kg増加する (3)チョコレート、クッキー、ケーキ、お饅頭などの甘いものをたくさん食べてしまう、などです。とくに、(3)の症状が気になり、「過食症ではないか」と受診される方もあります。

今の時期に、こういった症状に思い当たる方は、主治医に、そのことを伝えるようにしましょう。

どうして「冬季うつ」が生じるのかに関しては、まだ定説はありませんが、日照時間の変化により、体内時計のずれが生じるのが原因であろうといわれています。

治療法としては、まだ日本では、それほど普及していませんが、「光療法」といって、2500kuxくらいの明るい蛍光に1〜2時間当たる治療法があります。このほか、屋外で運動すると神経伝達物質のバランスが回復しやすく、同時に日光にも当たることになります。第三は、抗うつ薬による治療ですが、今のところ,SSRIによる治療が推奨されています。

生物学的基盤から発症する「冬季うつ」以外にも、さまざまなうつ状態があり、最近は軽症だけれども長引くケースが問題になっています。「冬季うつ」と同様に、実は隠れた軽躁状態の時期があり、うつ病だと診断していたら、実は躁うつ病だったりします。この場合、炭酸リチウム、バルプロ酸などの気分安定薬を処方して、うつにも躁にもなりにくいように気分の安定を図ります。このほか、いくらお薬で治療しても、その人の考え方や行動パターンを修正しない限り、ぐずぐずと長引くケースもあります。その原因はさまざま。主治医とともに、よく考えましょう。

まつい心療クリニック院長 松井律子
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